2011年12月14日水曜日

最高にあつい本『夜明け前』

昨夜、やっとの事で島崎藤村『夜明け前』を読み上げた。読み始めたのが今年の6月初めであったから半年掛った事になる。勿論この本だけを読み続けたわけでなく並行して10数冊別の本も読んでいたのだが。しかし私に取っては生涯で最もあつい小説本で、本の厚さは5cmで中の活字が細かく1ページ2段書きだから活字密度は高いので、今思うとよく読みきったものだと我ながら感心した。

先日ある異業種勉強会の35周年記念誌にエッセイ『古本が結ぶ不思議な縁』を寄稿したが、実はこの本も古本が結んだ縁で読み始めたのである。今年3月に神保町で古本『梅と雪(水戸の天狗党)』(杉田幸三著)を購入し読み始めたが、天狗党が常陸国・那珂湊から京都に向けて行進中、信濃国・諏訪に出てきて、三州街道を天竜川に沿って南に下り飯田から馬籠に向かう。この辺は小説『夜明け前』に詳しいと書かれていたので、早速インターネットで検索して、中央公論社の日本の文学『夜明け前』の古本をゲットした。(写真参照)

いざ本を手にして、その厚さ、活字の細かさには尻込みさせられたが、読み始めるとこれが面白い。ストーリーは馬籠宿の「本陣」である青山家の3代に渡って書かれているが、1代目は江戸時代の中期、参勤交代が盛んに行われていた時代の名誉ある本陣職であったが、2代目になると江戸末期、幕府の勢力も弱体化する中、参勤交代の形骸化が進み、黒船来襲と海外からの圧力も加わり、遂には3代目の時、明治維新により本陣の廃止となりお家が滅亡してゆく姿を描いている。あの山奥の馬籠宿でも、京都やそして江戸でのニュースが結構早いスピードで入り込み、この物語の中心人物2代目である青山半蔵の青春時代、江戸や京都に度々出掛けては情報を収集していた姿に感心させられた。この小説を読み上げて、何か今現在日本が直面している「先の見えない日本」に居る自分には、明治維新の中で平田篤胤の国学門下に走った半蔵の気持ちがよく分かるのだ。